日本企業の業務自動化は今、大きな転換点を迎えています。
RPAによる定型業務の自動化から、生成AIとの連携による高度な「エージェンティックオートメーション」へ。この新たな自動化の波は、企業の生産性向上だけでなく、働き方そのものを変革する可能性を秘めています。
一般社団法人次世代RPA・AIコンソーシアム（NRAC）の知見をもとに、11の成功事例から見えてくる自動化の現在と未来、そして生成AIがもたらす可能性について解説した一冊が登場しました。
１．日本企業のRPA活用の現状と課題
日本企業におけるRPA（Robotic Process Automation）の導入は、2017年の登場以降、急速に広がりを見せてきました。
働き方改革の推進や人手不足対策として、多くの企業がRPAを活用した業務の自動化に取り組み、「RPA先進国」とまで呼ばれるようになっています。
単純作業や定型業務の自動化により、業務効率化や人的ミスの削減、残業時間の短縮などの効果が各所で報告されています。
しかしながら、この目覚ましい広がりの一方で、RPAの活用は多くの企業で部分的な導入にとどまっているのが現状です。
特定の部署や業務プロセスでの活用が中心であり、組織全体を横断するような全社的な導入は進んでいません。
そのため、企業活動全体における自動化の影響は限定的であり、業務改革やデジタルトランスフォーメーション（DX）の観点からすると、その効果は十分に発揮されていないと言えるでしょう。
この状況には、いくつかの課題が存在しています。
まず技術的な面では、RPAは主に定型的で規則性のある業務の自動化に適していますが、判断を伴う業務や例外処理、非定型業務への対応が難しいという限界があります。
また、組織的な面では、部門間の壁や既存業務プロセスへの固執、全社最適の視点不足などが、RPAの本格的な展開を阻む要因となっています。
さらに人材面では、RPAの開発・運用を担うスキル人材の不足や、自動化によって浮いたリソースの再配置に関する戦略の欠如などの問題も指摘されています。
欧米企業に目を向けると、特に2020年以降、AIとRPAを中心にさまざまなデジタルテクノロジーを組み合わせた全社レベルでの自動化が進展しています。
これらの企業では、単なる部分最適化ではなく、業務プロセス全体を見直し、最適化した上での自動化が行われており、生産性向上やビジネスモデル変革につながっています。
この差は、デジタル技術の活用範囲だけでなく、自動化に対する戦略的アプローチの違いとも言えるでしょう。
日本企業がこの差を埋め、自動化をさらに進化させるためには、RPAの活用範囲を広げるだけでなく、新たなテクノロジーとの融合や、業務プロセス自体の抜本的な見直しが必要です。
そして、その大きな転換点となり得るのが、近年急速に発展している生成AIの活用なのです。
２．生成AIが拓く業務自動化の新時代
2022年に公開されたChatGPT3.5は、生成AIの可能性を世界に知らしめる大きな転換点となりました。
テキスト生成、画像生成、音声生成など、様々な形で人間の創造的な活動を模倣し、時には凌駕するAIの能力は、ビジネスの現場に新たな可能性をもたらしています。
特に、これまでのRPAでは対応が難しかった非定型業務や判断を伴う業務においても、生成AIが大きな力を発揮することが期待されています。
従来のRPAと生成AIでは、得意とする領域が異なります。
RPAはルールが明確で定型的な業務、特にシステム間のデータ連携や単純な入力作業などに強みを持っています。
一方、生成AIは自然言語の理解や生成、パターン認識、創造的タスクなど、より複雑で知的な処理に適しています。例えば、顧客問い合わせへの回答作成、レポート作成、データ分析、アイデア発想などの業務では、生成AIが人間の作業を大幅に効率化する可能性を秘めています。
この二つのテクノロジーを組み合わせることで、これまで自動化が難しいとされてきた業務領域にも自動化の波が広がります。
例えば、生成AIがメールやチャットの内容を理解して返信の下書きを作成し、RPAがその返信をシステムに入力して送信するといった連携が可能になります。
また、RPAが収集したデータを生成AIが分析してレポートを作成し、そのレポートをRPAが関係者に配布するといった業務フローも実現できるでしょう。
これにより自動化できる業務領域は大幅に広がります。
支援、マーケティング、人事、法務、財務、研究開発など、あらゆる部門で高度な知的作業を含む業務プロセスが自動化の対象となります。
例えば、契約書のレビューや作成、採用活動における候補者スクリーニング、市場調査データの分析とレポート作成、製品開発におけるアイデア発想など、これまで人間の専門知識や判断が欠かせないとされてきた業務にも、AIとRPAの連携による自動化の波が押し寄せています。
しかし、こうした新たな自動化の形を実現するには、単に二つの技術を導入するだけでは不十分です。
両者の特性を理解し、最適な形で連携させる新しい概念が必要となります。そこで注目されているのが、「エージェンティックオートメーション」という新たなアプローチなのです。
３．エージェンティックオートメーションとは
エージェンティックオートメーションとは、生成AIを「頭脳」として、社内のデータやITアプリケーションをRPAが「神経系」としてつなぐことで実現する、より人間に近い、擬人化された「新しい自動化」の形です。
この概念は、単なる技術的な連携を超え、AIとRPAが一体となって人間の業務を総合的に代替・支援する仕組みを目指しています。
従来の自動化が「点」や「線」の自動化だとすれば、エージェンティックオートメーションは「面」や「空間」の自動化と言えるでしょう。
生成AIの高度な判断力と創造性、RPAの正確で迅速な処理能力を組み合わせることで、業務プロセス全体を包括的に自動化することが可能になります。
例えば、顧客からの問い合わせに対して、生成AIが内容を理解し適切な回答を生成、RPAがその回答を顧客管理システムに記録し、必要に応じて関連部署への通知や追加情報の収集を行うといった、一連の業務フロー全体を自動的に処理できるようになります。
この新しい自動化の形を実現するためには、いくつかの技術的要件や組織的取り組みが必要です。
技術面では、生成AIとRPAを適切に連携させるためのインターフェース設計や、AIの判断を適切に監視・制御するガバナンス体制の構築が不可欠です。
また、組織面では、業務プロセス全体を見直し、人間とAI・RPAの適切な役割分担を設計する必要があります。
さらに、こうした新しい自動化環境で働く従業員のスキルアップや意識改革も重要な課題となります。
すでに一部の先進企業では、エージェンティックオートメーションに近い形での自動化が始まっています。
例えば、金融機関における融資審査プロセスでは、RPAによる申請データの収集・整理、AIによる信用リスク分析、そして最終的な判断結果の通知までを一気通貫で自動化する取り組みが進んでいます。
また、製造業では、市場データの収集・分析から需要予測、生産計画の立案、サプライヤーへの発注までを統合的に自動化するシステムの構築が進められています。
こうした取り組みを通じて、企業は単なる業務効率化を超えた価値を得ることができます。
人的ミスの削減による品質向上、24時間365日の業務処理による顧客対応の迅速化、データに基づく高度な判断による経営の最適化など、多面的な効果が期待できます。
さらに重要なのは、人間がより創造的で付加価値の高い業務に集中できるようになることで、企業の競争力や従業員の満足度向上にもつながる点です。
このような可能性に着目し、日本でも一般社団法人次世代RPA・AIコンソーシアム（NRAC）が設立され、エージェンティックオートメーションの普及に向けた取り組みが始まっています。
そして、その知見と先進事例を集約したのが、次にご紹介する一冊なのです。
４．「生成AIがもたらす未来の働き方」書籍紹介
「生成AIがもたらす未来の働き方 11の成功例から見るRPAの現在地とエージェンティックオートメーションの可能性」は、RPAと生成AIの連携による新たな自動化の可能性を包括的に解説した一冊です。
この書籍の特徴は、単なる技術解説にとどまらず、実際のビジネス現場での活用事例や、自動化がもたらす働き方の変革について、多角的な視点から論じている点にあります。
第1章では、日本国内でRPAによる自動化を積極的に進めている11の組織（企業、教育機関、病院、NPO団体）の事例が詳細に紹介されています。
これらの事例は、何を自動化したかという技術的な側面だけでなく、どのように取り組みを進め、どのような価値が得られたかという実践的な視点も含まれています。
特に、自動化を進める過程での課題や障壁、それをどのように乗り越えたかという点は、同様の取り組みを検討している読者にとって貴重な参考情報となるでしょう。
第2章では、一般社団法人次世代RPA・AIコンソーシアム（NRAC）が提唱する「新しい自動化」の概念と、その実現に向けた課題について詳しく解説されています。
特に生成AIがRPAと連携することで実現する「エージェンティックオートメーション」という新しい概念は、今後の業務自動化の方向性を示す重要なビジョンとなっています。
技術的な実現方法だけでなく、組織文化や人材育成の観点からも、この新しい自動化のあり方について多角的に論じられています。
第3章は、自動化やAI活用の最前線で活躍する有識者による座談会形式となっており、生成AIや自動化が人の働き方や社会に与える影響について深い洞察が語られています。
技術的な可能性だけでなく、倫理的な側面や社会的インパクト、人間の役割の変化など、より広い視点からの議論が展開されており、これからの時代を生きるビジネスパーソンにとって大きな示唆を与えてくれるでしょう。
本書を貫くのは、一般社団法人次世代RPA・AIコンソーシアム（NRAC）の知見と実践的アプローチです。
NRACは、生成AIとRPAの連携による新しい自動化の可能性を追求し、その普及を目指して設立された団体で、産業界や学術界からの幅広い専門家が参画しています。
彼らの豊富な経験と先進的な知見が本書の内容に反映されており、理論と実践のバランスがとれた情報を得ることができます。
この本を読むことで、RPAや生成AIに関する技術的な理解だけでなく、それらを活用して組織や業務をどのように変革していくべきか、また未来の働き方がどのように変わっていくのかについての洞察を得ることができるでしょう。
特に、DX推進担当者や業務改革推進者、IT部門責任者など、組織の変革を担う立場の方々にとって、具体的な行動指針や参考となる事例が満載の一冊となっています。
日本企業がRPAの部分的活用から脱却し、生成AIとの連携による新たな自動化の段階へと進化するための道筋を示してくれる本書は、これからのビジネス環境で競争力を維持・向上させたいすべての経営者や実務担当者に、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
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